トビウオには50もの種がいることをご存知ですか?
その中の「ホソトビウオ」と「ツクシトビウオ」を「たたき」で食べ比べてみます。
姿かたちは見分けが付かないほどそっくりですが、味の印象はかなり違う!
アラ出汁を「つみれ汁」にすれば、さらに違った美味しさに。
淡泊なだけかと思いきや色んな表情を見せる「味のカメレオン」トビウオの魅力を紹介します。
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お取り寄せ魚を使った土曜日の「まるサバ」パーティー、ニザダイの洗い・アイゴの刺身とべっこう漬けに続いて「ホソトビウオ」と「ツクシトビウオ」を食べてみます。
実はトビウオをまともに食べるのは今回が初めて。どう調理するか迷います。
築地魚河岸三代目で英二さんがトビウオについて「刺身では抜群に旨いというわけじゃない」と評していて、「なめろう」をお勧めしていました(6巻のFish 7「下支えの出汁(前編)」・38巻のFish 5「尾ヒレの付けられたトビウオ」参照)。
尊敬する英二さんのお勧めなので「なめろう」にしたいところですが、初めての魚なので自然な食感や味も体験したい…間をとって「たたき」にしてみることに。
また、トビウオといえば「あごだし」ということで出汁は是非とも試してみたいところ。アラ出汁で「つみれ汁」を作ります。
ホソトビウオとツクシトビウオのたたき
昨日の下処理で三枚におろしてリードとラップに包んでおいたサクを使います。
皮を手でペリペリと剥き、
ホソトビウオは小さめなので2サク丸々、血合い骨も一緒にぶつ切りに。
ツクシトビウオは大きめなので半身(1サク)だけ使い、骨があたりそうなので血合い骨を切り取ってからぶつ切りにします。
ホソトビウオとツクシトビウオをそれぞれ薬味(今回はネギ・大葉・ショウガのすりおろし)と一緒にたたき、
お皿に盛れば完成です!
個体差の可能性もありますが、ツクシトビウオよりホソトビウオの方が色が濃く黒っぽく見えます。
交互に食べ比べてみると…
・・・おいしいっ!
淡泊で香りが良い点は共通していますが、受ける印象はかなり違います。
見た目通りホソトビウオの方が濃厚な味わいで、噛みしめながら食べたくなる感じ。
サイズが小さいことも関係しているかもしれませんが、身質が柔らかくてたたきに合います。
ツクシトビウオはホソトビウオと比べて味が薄く、さっぱりしています。最初は少し物足りないかな?と思いましたが…
口の中で感じるスルッとした勢いのある爽やかさが、キラキラと輝く海面でトビウオが風を切って滑空する光景を連想させます。
パクパクと口に放り込むたびに頭の中の大海原でトビウオがジャンプ!
トビウオを食べている実感をありありと感じる、そんな面白さがあり食べていてワクワクします。
ホソトビウオは脳内でジャンプしたりしませんが(笑)、やはりしみじみと美味しくツクシトビウオとの対比も楽しい。
見た目はとっても似ているのにここまで味が違うとは驚きでした。
ツクシトビウオのつみれ汁
昨日からリードとラップに包んで保存しておいたツクシトビウオとホソトビウオのアラを煮出し、出汁をとります。
たたきにしなかった方のツクシトビウオの半身をぶつ切りにし、
たたきの下に敷いていた大葉・たたきで余ったネギ・塩を加え、粘りが出るまで一緒にたたきます。
この状態が英二さんお勧めの「なめろう」ですね。
ちょっとつまみ食いしてみると…塩で味が引き出されたのかな?たたきよりもぐっと深い味わいになって美味しい!さすが英二さん♡
団子状に丸め、アラ出汁につみれを入れて軽く火を通し、
塩少々と薄口醤油をひとたらし加え、青ネギをパラパラと散らせば完成です!
良い香りがしておいしそう…いただきます!
・・・おいしい~~~~!出汁がすごい…!!
たたきの時の軽快な味が一転、透明感のある綺麗な旨味が全身に行き渡ります。
目を瞑ってじっくりと味わうと、心に浮かぶのは高級料亭の一室。もうトビウオのジャンプの名残はありません。
トビウオ自体は安い大衆魚というイメージですが、トビウオの「あごだし」となると数ある魚介系だしの中でも屈指の高級品というイメージですよね。
そのイメージを裏切らない、どこまでも澄み切った上品で高貴な美味しさです。
つみれは上品な出汁には不釣り合いなほどのブリブリした食感。
つまみ食いしたなめろうとはまた違うしっかりした味と歯ごたえで、トビウオが見せる多彩な表情に驚かされっぱなしの一品でした。
土曜日の「まるサバ」パーティーはこれにて閉会。(他の料理はこちら→「臭い?不味い?とんでもない!まさかの美味しさ「ニザダイ(サンノジ)」の洗い」「磯臭い魚の代表格「アイゴ」を生で食べ比べ!刺身 vs べっこう漬け」)
明日日曜日の「まるサバ」パーティーも楽しみです♪(→次の記事:「ニザダイ(サンノジ)の臭みを活かす美味しい食べ方3選!中華風洗い・水煮魚・簡易燻製」)
小話
トビウオは私にとって馴染みのない魚で、今回のお取り寄せでホソトビウオとツクシトビウオが届くまでトビウオに種類があることすら意識していませんでした。
この機会に調べてみると、種類があるどころの話ではありません。
トビウオ科に属する魚は世界に約50種(!)もいて、その50種は5つの属をまたいで分類されるとのこと。
今回同定に苦労したホソトビウオとツクシトビウオをはじめ、姿かたちはどれも似通っているのに…奥が深いですね~!!
日本近海で主に獲れるのは、トビウオ(学名が “Cypselurus agoo agoo” アゴアゴって…かわいい!)・ハマトビウオ・ツクシトビウオ・ホソトビウオの4種。
今回は食べなかったザ・トビウオとハマトビウオも是非食べてみたいです。
ちなみに、トビウオの仲間もサンマやサヨリと同じ「ダツ目」に分類されます。
よく見ると顔がボラに似ているので近縁なのかな?と思いましたが、全く近くなく「目」レベルで違います(ボラは「ボラ目」)。
「目」レベルで違うとはどういうことでしょうか?
生物の分類体系は小さい方から「種・属・科・目・綱・門・界」で成り立ちます。
例えば、トビウオの仲間は「ダツ目」「トビウオ科」の中の5つの異なる「属」に分類される約50「種」に分けられます。
「近縁」という言葉は一般的に「属」が同じ場合に使います。
今回食べたホソトビウオとツクシトビウオは同じ「ハマトビウオ属」に分類される別の「種」なので「近縁」ですが、例えばトビウオ科の中でも「ニノジトビウオ属」に分類される「ホソアオトビ」という魚は、ホソトビウオやツクシトビウオと「近縁」とは言い難いのです。
そのため、「科」を飛ばして「目」まで違うボラとトビウオは、近縁どころか積極的に遠縁といった方が良いくらい違うということになります。
たまにはこのような分類体系を意識して魚を頂くのも、意外な発見があったりして楽しいものです。
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