臭い磯魚として有名な「ニザダイ(サンノジ)」ですが、実は身質・脂乗り・旨味は抜群。
刺身で臭くても諦めないで!臭みさえ対処すれば最高に美味しく食べられます。
ニザダイの臭みを活かした3つの絶品料理の作り方を紹介します。
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金曜日に下処理をした大量のお取り寄せ魚を使って、日曜日も「まるサバ」パーティーです♪
(土曜日の「まるサバ」パーティーの様子はこちら↓↓)
- 「臭い?不味い?とんでもない!まさかの美味しさ「ニザダイ(サンノジ)」の洗い」
- 「磯臭い魚の代表格「アイゴ」を生で食べ比べ!刺身 vs べっこう漬け」
- 「まるで味のカメレオン?トビウオ2種を食べ比べ!ホソトビウオとツクシトビウオのたたき・絶品つみれ汁」
お取り寄せして3日目なので、足が早そうなニザダイは今日のうちに食べ切ってしまいたいところ。
昨日の「ニザダイの洗い」では三枚におろしたニザダイの半身をさらに半分にサク取りしたもの、つまり全体の4分の1を使ったので、4分の3がまだ残っています。
4分の1ずつ使い、日曜日なので少し凝って「中華風洗い」「水煮魚」「簡易燻製」の三品を作ってみます。
ニザダイの中華風洗い
昨日の洗いが美味しすぎてまた食べたい!でも全く同じじゃ芸がない…ということで、酢味噌の代わりに中華風のタレをかけて食べるニザダイの中華風洗いを作ります。
まず、たっぷりのサラダ油にネギ・ニンニク・ショウガ・唐辛子を加え、弱火でじっくり煮出してネギ油を作ります。
フライパンに紹興酒と醤油を入れ、ネギ油を少量加えて一度煮立ててタレを作ります。残りのネギ油は水煮魚で使うので取っておきます。
タレを濾して冷蔵庫でキンキンに冷やしておき、
昨日の洗いと同じ要領でニザダイのサクを洗いにし、
水気をよく拭き取ってからお皿に盛り、冷やしたタレを回しかけ、青ネギを添えれば完成です!
サッポロ黒ラベルと一緒にいただきます!
・・・ちょっと臭い???
昨日の洗いでは涼やかな磯の香りに感じられたニザダイの磯臭さが、今日は微かに、でも確かに臭みとして現れています。セロリに近い臭いです。
抜群の旨味や身質は今日も健在なのですが、ニザダイの臭みと旨味、さらには中華ダレと青ネギの味がそれぞれ独立してバラバラに自己主張し、なんともまとまりのない印象。
なんとなくナッツのようなものがあったら上手くまとまるのでは?と思い、冷蔵庫を物色すると…
ありました!おつまみに買って少しだけ残っていたミックスナッツ。
これを細かく刻んでフライパンで炒り、
パラパラと散らしてみると・・・
・・・おいしい~~~~!!!!
ナッツが架け橋となって、バラバラだった「ニザダイの臭み・ニザダイの旨味・タレ・ネギ」の4つの要素が見事に一つにまとまりました!
決して臭みが消えたわけではないのですが、ナッツの橋渡しで臭みすら他の要素と一体となり、奥行きのある味わいに。
タレもネギもナッツも味の個性が強いので、淡泊な魚を合わせると負けてしまいそう。クセがある魚の方がこの料理には合いそうです。
その点で、臭みはあるけれど身質・脂・旨味ともに最高のニザダイを上手く活かす料理だと言えると思います。
色んなニザダイ料理を試したかったので4分の1だけ使いましたが、倍量は食べたいくらい美味しい!
今後ニザダイを食べるときには絶対作ることになるであろう一品でした。
ニザダイとマトウダイの水煮魚
「水煮魚」は四川料理の一種で、油と花椒と唐辛子をたっぷり入れたスープに茹でた魚を加え、その上からさらに熱々の油を大量に注ぎ入れるという豪快な料理です。
本場中国ではコイなどの臭みのある淡水魚で作られるそうなので、臭みの強いニザダイにぴったりのはず!
ニザダイの他に、お取り寄せした魚の中からマトウダイも使って食べ比べてみます。
マトウダイはニザダイのように「未利用魚」というわけではなく普通に美味しく食べられている魚ですが、マトウ臭としか言いようがない独特の臭いがほのかにあります。
そのためこのようなパンチのある料理に合いそうだと踏んだのですが…どうでしょうか?
こちらのレシピを参考に作ります。
まず、ニザダイとマトウダイのサクをぶつ切りにし、塩・コショウ・紹興酒で和えます。
しばらく置いてから片栗粉をまぶし、沸騰したお湯で2~3分茹で、ザルにあげて水気を切っておきます。
中華風洗いの時に作ったネギ油(カップ一杯半くらい)にニンニクのみじん切りとセロリの薄切りを入れて煮出し、豆板醤を大さじ1くらい加え、
香りが立ったら中華スープの素を溶いた水をカップ一杯入れ、これが煮立ったらモヤシを一袋分加えて2分くらい加熱します。
それを耐熱皿に入れ、水気を切っておいたニザダイ・マトウダイとたっぷりの花椒・唐辛子を加え、
カンカンに熱した1カップくらいのサラダ油を注ぎ入れれば…
完成です!
器が熱々で食卓に運ぶのも一苦労。なんて危険な料理なんでしょう…相当美味しくないと報われないぞ。
黒ラベルと一緒に、いただきます!
・・・もの凄く美味しい!!!!絶品です!!!!
花椒と唐辛子の量から舌に痛みが走るような辛さを想像していたのですが、意外にもじんわりと身体を包むようなトゲのない辛みです。
その中で、沢山の香味野菜と香辛料による複雑な香りをまとった魚の旨味が広がります。
大量の油でギトギトなのかと思いきや、油がまとわりつくような不快さはありません。適度な油が魚やモヤシにコーティングされ、口当たりはむしろツルっと軽やか。
期待通り、大量の油と香味野菜・香辛料のおかげでマトウダイはもちろんニザダイさえも臭みを全く感じません。
熱かったけど作ってよかった~!ニザダイとマトウダイ、どちらもとっても美味しい!
ただ、どちらの方がより美味しいかと聞かれたら、圧倒的にニザダイです。
マトウダイは独特のマトウ臭はあるものの味自体は比較的淡泊な魚なので、スープのパワーに負けて臭みと一緒に味も薄まってしまったように感じました。
特徴的なフワフワの身質は楽しめるものの、マトウダイの代表的な調理法であるムニエルほどのしっくり感はなかったかな。
一方、ニザダイはスープの味と香りを踏み台にして自身の旨味をさらに押し出してくるような力強さがあり、臭いだけが消えて旨味はむしろ際立っています。本当に美味しい…
水煮魚は間違いなくニザダイの正解調理法の一つですし、ニザダイに限らず臭くてなかなか食べられないと言われる未利用魚を美味しく食べるための有効な突破口なのではないかと思いました。
ちなみに、魚もさることながらモヤシが凄まじく美味しい!今回は一袋でしたが次は二袋入れたいです。
また、ビールが異常に進む恐ろしい料理でもありました…(これだけで缶ビール3本)
ニザダイの簡易燻製
私は燻製作りも好きなのですが、魚の燻製は淡泊な魚よりもサバのように味が濃くて脂がのり、多少クセのある魚種の方が美味しくできるので、ニザダイも燻製向きなのではないかと思いました。
長期保存を目的として本格的に燻製を作る時は、ソミュール液(調味料やスパイスを入れた塩水)に魚や肉を2~3日漬け込んだ後に水に晒して塩を抜き、しっかり乾燥させてからスモーカーで温度管理をしながら数時間燻煙するため、手間と時間がかかります。
今回は作ってすぐに食べるので、中華鍋を使った簡易燻製にしてみることに。
まず、リードで包んで脱水しておいたニザダイに塩・コショウを振り、またリードに包んで冷蔵庫で2時間置いた後、扇風機に1~2時間あてて乾燥させます。
中華鍋にアルミホイルを敷き、その上に燻製用のチップを置きます。
コンロの火を着けると共に、チップをバーナーで炙って火を起こし、
ケーキクーラーを置き、その上にニザダイを載せ、
蓋をして熱燻します。途中で煙が弱まってきたら再度バーナーでチップを炙り、
約20分後、食べやすい大きさに切ってお皿に盛り、パクチー(たまたまあったので)を散らしてレモンを絞れば完成です!
しっぽりウイスキーで、いただきます。
・・・おいしい~~~!!!!
例に漏れず脂も旨味もたっぷり感じられて、予想通り燻製と相性バツグンです。
気になる臭みは燻香やパクチーの香りと混ざり合い、かぐわしいエスニックな香りに進化。
中華風洗いや水煮魚と同じ魚とは思えないくらい、ニザダイの全く違う側面を見せてくれます。
魚料理とウイスキーを合わせることはめったにありませんが、これまたとってもよく合う!
お取り寄せ魚シリーズの最後のニザダイ料理にして、ニザダイのさらなる可能性を感じさせてくれる一皿になりました。
お取り寄せ魚を使った日曜日の「まるサバ」パーティーはこれにて閉幕です。(→翌月曜日の記事はこちら:マトウダイ料理2品食べ比べ!定番「ムニエル」と変化球「中華風刺身」)
ニザダイを食べ終えて…
私たちは臭みがある魚を嫌います。
それは、私たちが無意識のうちに魚の味を刺身の味で評価しているからではないでしょうか。
臭みがあると刺身としては不利になるので、それだけでその魚は美味しくない、価値がない、などと思い込んでしまう…
でも、考えてみれば刺身は数ある調理法のうちの一つにすぎず、それだけで魚の旨い/不味いを判断するのもおかしな話です。
刺身はサバいて切るだけの究極にシンプルな魚の調理法なので、刺身で美味しく食べられる魚種はかなり限定されます。
優しい味付けの煮魚や塩を軽く振っただけの焼き魚などの一般的な魚料理でも同じことが言え、そうすると限られた魚種しか食べなくなり特定の魚種だけに漁獲圧がかかる一方で、他の多くの魚種は見向きもされないという極端な状況に陥ってしまいます。
これは、クロマグロのように乱獲が主な原因となって絶滅寸前の魚種がいる一方で、ニザダイのように日の目を見ない多くの未利用魚が存在する今の状況そのものではないでしょうか。
ニザダイは身質・脂乗り・旨味は素晴らしいのに臭みのせいで未利用魚になっている非常にもったいない魚です※1。
普通の魚の調理法に囚われず臭みを活かす料理にすることで、本当に美味しくいただけます。
臭みを活かす料理というと難しく聞こえますが、旨味も臭みも強い魚を調理する、例えば中華料理などの手法をそのまま当てはめれば上手くいったりするので、そんなに難しいことでもありません。今回紹介した水煮魚が良い例です。
未利用魚は価格も安く※2節約になりますし、なにより珍しい魚の未知の美味しさに出会うのは魚好きにとって最高の楽しみです。
これからも未利用魚の美味しい食べ方を積極的に探っていきたいと思います。
※1磯についているので大量に獲るのが難しい・そもそも資源量があまり多くない・時期や獲れた場所によっては手の打ちようがないほど臭いなどの理由もあると思います。
※2今はそうですが、いつか未利用魚が未利用魚ではなくなり、適正な価格で流通するようになる時が来るのを願っています。
小話
以前紹介した「磯焼け」の話の続きです。
海の生き物、ひいては私たちの食卓に大打撃を与えてしまう「磯焼け」の原因として、「人為的な要因」と「環境による要因」の二つがあると言われています。
「人為的な要因」としては、私たちの経済活動によって海が濁り、海藻の光合成が妨げられ枯死に至ることなどが挙げられます。
「環境による要因」としては、水温や栄養塩(海藻の生長に必要な塩類)などの海の状態の変動による枯死や、藻を食べる動物による食害などが考えられます。
この「藻を食べる動物による食害」を引き起こす魚として、ニザダイやアイゴが疑われているのです。
ニザダイやアイゴは強い臭みのせいで消費者に不人気なので、漁獲による間引きが機能せず食害を引き起こすほど増えてしまっているのかもしれません。
以前に高知県の足摺海底館で海底を覗いて見た時、ニザダイの大きな群れがやたらと目立っていて驚きました。
アイゴは一昔前は夏場の重要なタンパク源として積極的に獲られていたそうですが、美味しいものが溢れる現代ではそうもいかないのでしょう。
今では磯焼け対策として、ニザダイやアイゴなどの藻食動物の駆除や人工的な藻場の造成などが試みられているそうです。
どちらの対策も大がかりで費用がかかりそうですし、食用としての需要がないからといって駆除するなんてもったいない話です。
でも、私たち消費者がニザダイやアイゴの美味しさを知って積極的に食べるようになったとしたら…?
これらの魚の漁獲量が増え、藻類と藻食動物の適切なバランスが復活して磯焼け問題の解決に繋がるかもしれません。
特別な磯焼け対策をするのは大変ですが、食べるだけなら簡単で、しかも抜群に美味しい!
ニザダイとアイゴ、魚屋で見かけたり釣ったりした時には是非とも今回紹介したような食べ方を試してみてください。
<参考文献>
ニザダイ、ブダイによるサガラメの食害についての一考,竹内章(2007)
アイゴSiganus fuscescensの食品としての特徴(筋肉のエキス成分)と魚臭低減化方法,蒲原聡ら(2008)
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