魚を食べる上で避けては通れない寄生虫「アニサキス」。
今や魚の寄生虫の代名詞とも言える存在ですが、アニサキスがそもそも何者なのか?どんな危険があって、どうすれば危険を回避できるのか?などを正確に知っている人は少ないように思います。
アニサキスは警戒すべき寄生虫ですが、必要以上に忌避して魚料理を食べなくなるのは勿体ないことです。
この記事では、魚を安全に美味しく食べるためのアニサキスの知識と対策を紹介します。
アニサキスとは?
「アニサキス」とは、アニサキスという線虫のグループ(属)に含まれる種の総称です。
一つの種を指すわけではないんですね。
アニサキスに当たるとはどういうこと?
「アニサキスに当たる」とは、主にアニサキス属のAnisakis simplex sensu stricto(以下、As)という種によって引き起こされる食中毒を発症することです。
この種が胃や腸の組織に潜り込もうとする時に、痛みを生じるようです。
他の種(Anisakis pegreffii(図中のAp)やPseudoterranova decipiens(図中のPd))でも同様の食中毒が引き起こされますが、Asに比べると症例はとても稀。
アニサキス症の100症例中99症例が、Asによって引き起こされていたとする報告があります(Umehara et al. 2007)。
どんな魚でアニサキスのリスクがあるの?
厚生労働省が公表している2014~2016の食中毒統計によると、アニサキス症の原因となった魚の54%がサバです。
サンマが17%でこれに続き、アジが8%、イワシが7%、サケが6%、残り8%がその他となっています。
アニサキスの主な感染源はサバだと言えますね。
サバによるアニサキス症を予防するには?
60℃で1分以上加熱するか、-20℃で24時間以上冷凍すれば、確実にアニサキス症を予防することができます。
つまり、サバの塩焼きや西京焼き・味噌煮など、加熱料理にすればアニサキスを心配する必要はありませんし、いったん冷凍してから解凍すれば、生食しても安全です。
適切に調理すれば、必要以上に警戒する必要はないんだね。
ただ、冷凍したものを生食すると、どうしても味が落ちてしまいます。
味を優先させて冷凍せずに生食するなら、多少のリスクは覚悟しなければいけないでしょう。
それでも、以下の点に気を付ければ、冷凍せずに生食してもアニサキスに当たる可能性を下げることができます。
私はサバの刺身が大好物ですが、これらの点に注意しているからか、一度もアニサキスに当たったことはありません。
①安全な産地のものを選ぶ
アニサキス属の線虫は、日本全国のサバに寄生しています。
ただし、上述したように、飛び抜けて危険な種はAsです。
幸い、この種には多く分布している地域と、ほとんど分布していない地域があります。
したがって、Asがほとんど分布しない海域で水揚げされたサバであれば、安全性は高くなります。
安全性の高い海域って、どこなの?
九州の東シナ海側と、石川以南の日本海側です。
これらの地域のサバにもアニサキスは寄生していますが、そのほとんどは比較的安全なApであることが確認されています(Suzuki et al., 2010)。
ただし、これらの海域のサバでも少数ながらAsの寄生が確認されているようです。
また、稀にApもアニサキス症を発症させることがあるので、安全な産地のものだからといって盲目的に口に入れるのは危険です。
下図はSuzuki et al., 2010でマサバに寄生しているアニサキスの種類が調べられた地域です(何も書いていない場所の状況は調べられていないので不明)。
②内臓をすぐに取り除く
アニサキスは基本的に内臓に寄生していて、魚が死ぬと筋肉に移動します。
そのため、内臓をなるべく早く取り除くことで、内臓に寄生しているアニサキスが筋肉に移動するのを防ぐことができます。
自分で釣った場合は、釣ったらすぐに内臓を抜くことをお勧めします。
店で買ったものでも、家に着いたらなるべく早く内臓だけ出してしまうと良いと思います。
ただ、最初から筋肉に寄生している場合もあるので、すぐに内臓を取ったとしてもサクにした段階でしっかりと観察したほうが良いでしょう。
③サバいたサクをよく見てアニサキスを取り除く
三枚におろされたサクをよく見ると、アニサキスは意外と発見できます(こちらの記事のアカカマスにもアニサキスがいました)。
見つけたアニサキスを丁寧に取り除けば、刺身で食べてもアニサキスに当たるリスクは大きく下がるでしょう。
よく噛めばアニサキスが死ぬから大丈夫、というネット情報があるよね!
どうやら、これは嘘のようですよ。
勇猛果敢に噛みついた方によれば、アニサキスは硬くて噛みちぎれないそうです。笑(野食ハンマープライスさんのこちらの記事:喰われる前に喰う!寄生虫界の裏番長・アニサキスを積極果敢に食べてみた)
アニサキスは酢や多少の塩分でも死ぬことはなく、〆サバにすれば大丈夫ということもないみたい。
他の魚のアニサキス対策は?
上述したように、サバに限らずアジ・イワシ・サンマにはアニサキス感染のリスクがあります。
これらの魚は、サクをよく観察し、新鮮なものに限って生食することをお勧めします。
サケもアニサキス感染のリスクがありますが、養殖物は確実に安全なので、生食するなら養殖物にしておくのが良いでしょう。
天然物のサケはほぼ100%アニサキスが寄生しているので、冷凍なしでの生食は厳禁です。
どうしても天然のサケ類を生食したいのであれば、いったん冷凍しましょう。
アニサキス症の治療は?
残念ながらアニサキスに当たってしまったら、病院に行き、内視鏡で摘出してもらうべきです。
正露丸を飲むと痛みが和らぐらしく、この効果で特許も取得されているようです。
実際に、アニサキスに当たった知人も正露丸で痛みがマシになったと言っていました。
ただ、正露丸はあくまでも応急処置と考えて、最終的には病院で診察してもらうことをお勧めします。
まとめ
アニサキス症は主にAsという種によって引き起こされ、主要な感染源はサバです。
絶対にアニサキスに当たりたくない人は、加熱して食べるか、いったん冷凍したものを生食すべきです。
美味しさを優先し、多少のリスクを覚悟してでも生食したい方は、まずはなるべく安全な産地(九州の東シナ海側~石川以南の日本海側)のものを選ぶべきでしょう(ただし、これはサバについての情報で、他の魚についての情報は見つけられませんでした)。
さらに、なるべく早く内臓を取り出し、三枚におろした後のサクをよく観察し、アニサキスらしきものを見つけたら取り除くことを心掛けると、当たるリスクを極力下げることができます。
正しいアニサキス知識で、楽しい「まるサバ」ライフを!
<参考文献>
Suzuki, J., Murata, R., Hosaka, M., & Araki, J. (2010). Risk factors for human Anisakis infection and association between the geographic origins of Scomber japonicus and anisakid nematodes. International Journal of Food Microbiology. https://doi.org/10.1016/j.ijfoodmicro.2009.10.001
Umehara, A.,Kawakami, Y.,Matsui, T., Araki,J., Uchida,A., 2006.Molecular identification of Anisakis simplex sensu stricto and Anisakis pegreffii (Nematoda: Anisakidae) from fish and cetacean in Japanese waters. Parasitology International 55, 267–271.
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