「ニザダイ(サンノジ)」は強烈な臭さで悪名高い磯魚です。
釣りでもよく釣れますが、食べ方に困って持て余した経験がある方も多いのでは?
実は、丁寧に処理されたものを「洗い」にすると絶品です。
ニザダイの洗いの簡単な作り方とその驚きの美味しさを紹介します。
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お取り寄せした大量の魚の下処理を終えた翌日の土曜日、まだ日のある明るいうちからお取り寄せ魚で「まるサバ」パーティーです!
食べる優先度を考慮して、トップバッターは「ニザダイ」。
ニザダイは何年か前に沖縄で釣りをした時に釣れて、釣れたてをすぐに持ち帰って刺身にしたにも関わらず、一切れ口にしてそれすら呑み込めないほどの不味さだったというトラウマがあります。
それはそれは凄まじいケミカル臭を放っており、これを呑み込んではいけない!と本能的に感じるレベルでした。
ただ、その時のニザダイは釣り上げるまでのバトルで暴れて体力を消耗し傷ついていましたし、内臓を抜かずにそのまま持ち帰ったので臭みが回るのが早かったと考えられます(おまけにサバく時に内臓を破いてしまった…)。
今回のニザダイは定置網でストレスなく捕獲され、その場ですぐに丁寧に血抜きされ内臓を抜かれるという、「未利用魚」とは思えない破格の待遇を受けたものです。
トラウマに怯えつつも、ついつい期待してしまいます。
今回は、クセのある魚を美味しく食べるにはもってこいの「洗い」にしてみることにします。
ニザダイの洗い
三枚におろしたニザダイの半身をさらに半分にサク取りし、
薄く切って人肌のぬるま湯を入れたボウルで泳がせます。スズキなどの洗いでは常温の水を使いますが、トラウマがあるのでぬるま湯で、長めに一分くらい。
氷水を入れたボウルに移して身を締め、
水気をよく拭き取り、酢味噌を添えれば完成です!
サクの状態でも思いましたが、本当に見た目は麗しく、さながら高級魚の品格。
血筋が全く見当たらない白く美しい身は程よく透き通り、血合いは綺麗なサーモンピンクでサシまで入っています。
臭みも感じず、ただただ美味しそう…
まずは洗いを一切れ、いただきます!
・・・わぁぁ~~~~!おいしい!!
見た目を裏切らず身質が素晴らしい!
ムチムチの一歩手前くらいの適度な弾力がありつつも、スッと噛み切りやすい軽やかな食感。
舌触り良く滑らかに口の中でほぐれますが、確かな歯ごたえもある絶妙な身質です。鮨ネタにしたらシャリと上手く絡み合って凄く美味しそう。
身質だけでもあっぱれ!と言いたいくらいなのに、おまけに脂も乗っていて、さらにおまけに旨味まで濃い!
身質・脂乗り・旨味のどれをとっても一級品です。
予想外の美味しさに高ぶる気持ちを、スッと鼻に抜けるほのかな磯の香りが清々しく昇華させてくれます。
かつて感じたケミカル臭が嘘のような、涼やかな香りです。
時刻はまだ夕方5時を回ったところ。窓の外には初夏の瑞々しい緑が広がります。
これを眺めながらゴクゴク飲むビールの美味しいこと!
ニザダイの洗いの上質な清涼感も相まって、なんとも爽快で満ち足りた気分に。
興味本位で用意した試食用の刺身も、意外なほど美味しい!
洗いよりも臭いは強いのですが、不快さは全くなくニザダイの個性を楽しめます。
「未利用魚」の烙印を押されているニザダイですが、こんなに美味しいとは本当に驚きです。
この美味しさをたくさんの人に知ってもらいたいな~!と心から思った一皿でした。
お取り寄せ魚の「まるサバ」パーティー、まだまだ続きます。(→次の記事:「磯臭い魚の代表格「アイゴ」を生で食べ比べ!刺身 vs べっこう漬け」)
小話
ニザダイやアイゴ(「毒と臭みの裏には未知なる味の悦び…!アイゴの煮付け」参照)は「磯焼け」の一因であると考えられています。
「磯焼け」とは昆布やホンダワラなどの大型褐藻類の群落(いわゆる「海中林」)が山火事の焼け跡のように海から消えて回復しない現象のことです。
「磯焼け」が起こるとどうなるのでしょうか?
まず、ウニ類やアワビ類などの藻を食べて育つ大切な水産資源がいなくなってしまいます。
また、海中林はアオリイカなどの産卵場になっていますし、いろいろな魚の仔魚や稚魚の成育場としても重要です。
海中林がなくなるとこうした海の生き物が満遍なくダメージを受けます。
これが「磯焼け」が問題視されている理由です。
コメント
各地の海で潜って魚突きをしているまっしゅといいます。
今回かおりさんが食べたニザダイはどの地域で水揚げされたものでしょうか(書いてあったらすみません)?
私が最初に食べたニザダイは静岡東部で水揚げされたものでした。
その時は多少臭いがある程度でそこまできつくなく非常においしかったです。
次は伊豆諸島産でしたが、かおりさんがいう沖縄のニザダイの様なケミカル臭でほとんど食べられませんでした。
その後南九州産と東海地方産を食べましたが南九州は無臭で美味、東海はやや臭うが食べられる、という感じです。
もちろん時期や個体差はあると思いますが地域差がかなり強い魚であると思います。
店で食べたもの以外は全て水中で脳締めをして内臓出しまで行っています。
機会がありましたら是非他の地域の個体も食べ比べて紹介していただければと思ってコメントさせていただきました。
最後になりますが非常にわかりやすく、状況がイメージできる文章で楽しみながらも料理の参考にさせていただいています。
コメントいただきありがとうございます!
記事には書きませんでしたが、このニザダイは対馬のものです。
地域によって臭さが違うとは思ってもみませんでした…貴重な情報をありがとうございます!
水中で脳締めをして内臓出しまでされて(すごいですね!)なお臭いのであれば、その個体がもともと臭いとしか考えられませんね。
私は沖縄と今回の対馬のニザダイしか食べたことがないのですが、他の地域のものを食べる機会に恵まれたらまた記事にしたいと思います。
また、サイトへのお褒めの言葉をいただきありがとうございます。励みになります!
はじめまして。魚と磯釣りが好きで普段は魚を大量に扱う居酒屋で働いているなにおと申します。
磯でのメインターゲットはメジナですが、イサキやタカベ、サバ、サンノジ、ササヨなど普段の釣りでもさまざまな魚が釣れます。
基本的に磯で釣れる魚はイサキ、真鯛、シマアジ、タカベ、アカゲなどは市場でもそれなりの扱いを受けますが、メジナやサンノジなどは下魚中の下魚であることはご存知の通りです。しかし、メジナや冬季のササヨは調理法によっては鯛やヒラメ以上に美味しいですし、おいしいといわれる魚はどうしてもおいしいのは当然であって、不味いのは料理人の腕によるところと考えており、この記事の表すところに深く共感するとともに、そのような考えを持つ方がいることを大変嬉しく思います。
しかしながらそれでもなお、サンノジをおいしく食べることができるとは、あらゆる知識と技術をもってしても些か信じがたいことであります。
願わくば魚が好きな者同士、情報交換をしたいと思いコメント致しました。ご連絡頂けると幸いです。
お返事が遅くなりすみません。このところ仕事が立て込んでいて久々にブログを確認しました。
熱いメッセージをありがとうございます。そう言っていただけると大変励みになります。
特定の魚種しか食べない今の風潮は乱獲や生態系の破壊に繋がってしまいます。
量が取れるのに癖があるせいで未利用魚になっている魚については、レシピ次第では美味しく食べられるということを伝えられればと思ってこの記事を書きました。
こういう活動が少しでも特定の種に偏った漁獲圧を分散させることに貢献できればと思っています。
応援メッセージ、本当に嬉しかったです!
ありがとうございました。