今回は秋の魚の代表格「サケ」のお話です。
「サケ」って、何?
「サケ」という名前はいかにも総称っぽいですよね。
でも、実はこれは歴とした標準和名、つまり正式名称なのです。
正式名称は「シロサケ」じゃないの?
「シロサケ」はいかにも正式な響きがありますが…
実は「シロサケ」は流通名。いわゆる俗称なのです。
ちなみに、「シャケ」や「鮭」もこのサケを指します。
ところで、最近は「トキシラズ」・「オオメマス」・「ケイジ」・「メジカ」といった高級なサケが出回っています。
一方、私たちになじみ深いスーパーのサケには「アキアジ」・「秋ザケ」といったラベルが貼られていますね。
これらは別の種類の魚なのでしょうか?
…いいえ、実は全て「サケ」という一種の魚の別称なのです。
なんで名前が違うの?
味(特に脂のノリ)が大きく違うからです。
「サケ」に色んな呼び名がある理由
上に挙げたような呼び名のサケは大きく2つのグループに分けられます。
1つは成熟して川に産卵にやってきたサケたち。
もう1つは海でグングン成長している未成熟のサケです。
前者が私たちが普段食べているサケ。
後者がいわゆる高級サケです。
一般に、魚は体を成長させる時期には身に脂を蓄え、産卵が近づくとその脂を卵巣や精巣に回すため身が痩せます。
この仕組みについて、詳しくはこちらをどうぞ。
それぞれの呼び名と成熟の関係は下図の通り。
「トキシラズ(オオメマス)」と「ケイジ」は共に脂の乗った未成熟個体ですが、「トキシラズ(オオメマス)」は春から夏にかけて漁獲されたものを指すのに対し、「ケイジ」は秋に成魚に混じって漁獲される未成熟個体を指します。ロシアの川で生まれた個体がたまたま日本で獲られたものだと考えられているようです。
「アキアジ(秋ザケ)」は産卵のために母川の近くで水揚げされた個体なので、成熟しており筋子や白子を持っています。
「メジカ」はトキシラズとアキアジの中間。産卵のために沿岸にやってきたものの、母川はまだ遠いので成熟がそこまで進んでいない個体で、脂が乗っています。例えば、東北の川に遡上しようとしている個体が北海道で漁獲されたといったシナリオが考えられているようです。
なんで未成熟のサケは高いの?
数があまりとれないからです。
産卵のために川に寄ってきたサケではなく、あくまでたまたまそれに混ざったものだけが流通するため、値段が高いのです。
狙って獲れば大儲けだ!
がめつい!でも、それは出来ません。
サケの資源を守る取り組み
サケは基本的には公海に含まれる沖合で成長するのですが、そこでのサケの漁業は国際条約(北太平洋における溯河性魚類の系群の保存のための条約)によって全面禁止されています。
実はサケの資源量の大部分は人の手で放流された魚で、きちんと管理しないと容易にいなくなってしまう危険が…。
そのため、こうした国際的な取り組みがきちんとなされているようです。
ただ、最近はロシアのサケの資源量が増えてきており、今まで通りの取り方をしていても脂の乗った未成熟サケが獲れる量は増えるかもしれないという見方もあるようです。
ちなみに、日本のサケ資源は主にふ化放流事業によって維持されていますが、近年では自然産卵に由来する回帰魚も無視できない量になってきているそうです。
それでも、大部分は人が手を入れてどうにか維持している資源です。
そうである以上、いくら美味しいからと言って公海まで追いかけて行って獲ったりすべきではないですね。
未成熟のサケは、海の中には沢山います。
でも、その中でちょっと変わった回遊をしてたまたま人が獲ったほんの一握りをつつましく利用する、というスタンスがちょうど良いのかなと思います。
それに、成熟した産卵前のサケは身の脂こそ落ちていますが、とても味わい深いものです。
個人的にはお酒にはこちらの方が合うと思っていますし、何より筋子や白子が取れます。
自然の恵みに感謝しつつ、資源にダメージを与えない方法で晩酌。
これが最も美味しいお酒の飲み方であり、魚の楽しみ方なのかな、と私は考えています。
まとめ
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「トキシラズ」・「オオメマス」・「ケイジ」・「メジカ」・「アキザケ」etc. は全てサケという1種類の魚の別称。
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私たちが普段食べているサケは産卵のために沿岸に回遊してきた、捕りやすいけど脂が落ちているサケ
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ケイジやトキシラズと呼ばれる高級なサケは、まだまだ繁殖にエネルギーを回していないので脂が乗っているサケ。基本的には遥か沖合を回遊しているが、これが稀に沿岸に回遊してきたものが漁獲される。量が少ない上に味も良いため値段が高い。
今回は「サケ」という1種類の魚についてのお話でした。
でも、実は日本には色々な種類のサケがいます。これについてはまた別の機会に…
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